バイオサイエンスの魅力

教員からのメッセージ

私が選んだ研究への道 東原 和成 教授

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私は学部時代、理一から農芸化学科に進学しました。地球環境規模で多様な生命のなかの一生物種としてヒトを位置づけて生命科学をやっている農学部に惹かれました。テニス部でコートが近かったということもありますが(笑)、進学後、「飲んべい」化学科で頭も身体も刺激を受けて、学問の道に挑戦してみよう思ったのは、すばらしい教員と先輩達がいたからです。そして、一念発起してアメリカ大学院に留学し、医学部や理学部などを転々とした後、2009年に農芸化学(応用生命化学専攻)に戻ってきました。

現在は、においやフェロモンなど化学シグナルが生物にどのように受容されて、行動を支配しているのか、物質からレセプター、そして脳神経レベルの研究をおこなっています。「ものとり(物質の探索)」は、農芸化学のお家芸の技術であり、ユニークな研究をやるうえでの最強の武器です。何年か前にマウスの涙腺からフェロモンを発見したときは、農芸化学出身でよかったなと思いました。農芸化学で学び実験した学生は、どんな業界にいっても、どの分野にいっても、一流になれる可能性と柔軟性があると思います。生命化学・工学専修、そして応用生命化学・応用生命工学専攻に進学して、私達とともに、みなさんのなかに眠っているポテンシャルを最大限伸ばしてみませんか?

(平成22年日本学士院学術奨励賞受賞)

バイオサイエンスの魅力は語れない 藤原 徹 教授

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バイオサイエンスの魅力について、学生の皆さんにメッセージを書いて欲しいとの依頼をうけほぼ即答でお受けした。私はこれまでバイオサイエンスを生業としバイオサイエンスが楽しくて仕方が無いと感じているので、その魅力をお伝えするのは、「お易いこと」と思った。しかし、筆(正確にはキーボードか)を取ってはたと考えてしまっている。バイオサイエンスの本当の魅力をわかりやすく述べるのは難しい、というよりも不可能ではないかと実感してしまったのである。

生物は面白いことをしてくれるし、生物についてわからないことは多い。知的探求の材料としては格好である。カマキリを飼うのが私は好きだった。カマキリにバッタを与えると、獲物を見つめ、態勢を整え、瞬時に襲いかかり食事をする。終わったら満足げに(私が勝手にそう感じているだけだが)カマを掃除する。驚くべき能力と魅力である。私たちも生物である。また、生物(特に植物)を食べたり着たりして生活している訳で、私たちは私たちをとりまく生物無しには生きて行けない。

こういった説明は生物の魅力や生物研究の重要性の一端を伝えていてわかりやすいかもしれない。しかし、どうも通り一遍の説明にも思えてしまう。

私はこれまで植物を研究してきた。植物の研究は楽しい。より正確に言うと、植物は楽しい。私はなぜか子供の頃から植物を育てるのが好きだった。それもほぼ食べられる植物限定で。私には犬や猫にはほとんど興味がわかず、植物はかわいいと感じられる存在だった。「なぜか」は説明ができない。植物には植物の良さがあり、動物には動物の良さがあるのだが、言葉で説明できる理由で好きである訳ではない気がしている。

好きだと、楽しいので植物よく見る様になる。植物を愛でていると、植物は語りかけてくれるのである。これまでに気づかなかった何かに気づかせてくれる。私の研究は植物に教えられている。篤農家はイネを見るとイネの状態がわかるという。毎日イネに挨拶することで、イネの状態が感じられるようになる。まだまだ、測定器具は敵わない。こうなると増々植物の魅力に取り憑かれて行くことになる。

皆さんもご存知の様に、バイオサイエンスの最近の発展は凄まじい。植物の分野でも学生さんが自身で植物の個体毎にゲノム配列を決める時代がすぐにくるであろう。これまで長い期間かかった育種を素早く行うことができるようになったりするであろう。農学や農芸化学の時代である。観察技術や測定機器の発展も凄まじく、私の学生時代には想像もできなかったことが明らかにされ、実現しつつあると実感する。その中で、自らの研究によってその一端を明らかにすることはこの上ない喜びでもある。10年も前の話になるが、ホウ素の輸送体を見つけてそれが生物で始めての発見であったときの喜びは表現しようがない。その一方で、このような研究手法や技術の発展自体はバイオサイエンスの魅力を増すことはあっても、魅力そのものでは必ずしもないと思う。科学の進展によってもなお深奥な、私たちの知識を超越した植物に魅入られているとでもいうべき状態に私はあるように感じており、それが本当の魅力なのではないかと思う。やはり、魅力の説明は難しい。

皆さんは、何に魅力を感じているのだろうか?小さい頃、何が好きだっただろうか?もしそれが、何らかの生き物であったり、生き物の何かであるなら、その何かを垣間みる研究は楽しくやりがいのあるものであると思う。生き物(私の場合は植物)に魅入られると研究は楽しいし、没頭して発見をすると天にも昇る気持ちになる。人類に役立つ良いものを作ることができれば、なおさらである。あなたが生物に魅力を少しでも感じているなら私たちの専攻や専修においでください。その魅力をさらに大きく、深くする様々な研究が待ち受けていると思う。

(平成20年日本学士院学術奨励賞受賞)

微生物化学へのお誘い 葛山 智久 准教授

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私たちは現在、「放線菌」に秘められた機能を拓く研究を展開しています。放線菌は、自然環境中に棲息する微生物であり、構造多様な化合物を生産する能力が高く、化合物の供給源としてきわめて魅力的な微生物資源です。

そのため、放線菌が生産する抗生物質やその他の生理活性を示す化合物は、医薬品だけでなく、農薬、動物薬、酵素阻害剤など多岐にわたって利用されています。そのような構造多様な化合物は、アミノ酸や酢酸などのような比較的単純な中間化合物から、様々な種類の酵素(生合成酵素)の働きによって合成されます。そこで私たちは、これらの生合成酵素の働きを研究して明らかにすることで、構造的多様性を生み出すための生物がもつ巧みな「仕組み」を解き明かそうとしています。

また、生合成酵素を活用することで、有用化合物の生物生産につなげることができると考えています。このような研究では、化学と生物学の両方の知識と手法を駆使します。具体的には、生合成酵素の機能を明らかにするため、実際に生合成酵素を調製して酵素反応を種々検討し、その基質と反応産物の化学構造を明らかにしていきます。化学構造は、様々な分析装置によって集めたデータを解析することによって決定することができます。

その過程は、まさにパズルを解くような楽しさがあります。個々の生合成酵素の機能を明らかにしたら、その研究成果を学術誌またはそのウェブサイトに掲載して世界に発信することで、生物のもつ代謝の経路を図式化した代謝マップに新たな代謝経路を加えることができるのです。皆さんもサイエンスの分野で世界に発信して、「地図」に残る研究をしてみませんか?

(平成23年日本学士院学術奨励賞受賞)

農芸化学研究者へのお誘い 野尻 秀昭 教授

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廃水処理や汚染環境の浄化は微生物の力に因るところが大きく、この力をうまく制御できれば、種々の社会問題の解決に大きく寄与できる。しかし、現場(環境)では、主役として働く微生物以外の様々な微生物(傍観者、協力者、邪魔者)が存在する。

このような集団中では、主役の有用微生物の機能を強化したり制御したりするのは、容易ではない。環境因子や共存微生物の多様性から、実環境で働く微生物の研究は、実験室内での微生物研究に比べると格段に複雑で、高等生物の研究に匹敵するかそれ以上の難しさがある。私の研究はこんな微生物の機能を扱っているが、このような研究対象に挑むためには、従来の微生物学的・分子生物学的手法に加えて、環境科学、環境微生物学、ゲノム科学など、様々な分野の手法も用いて学際的に研究を展開する必要がある。農芸科学は研究分野のデパートであり、困った時に簡単に相談相手を見つけることができる。これは研究を進める上で、非常に恵まれた環境と言える。

ところで、研究は、ある現象について仮説を立て、実証方法を選択し、結果を解釈して、仮説を改良するプロセスの繰り返しである。真理を言い当てるような鋭い仮説を立案できるか否か、上手な方法選択が可能か否か、結果に潜む真理の一端に気づくか否かは、研究者としての才能と努力に加え、ちょっとした幸運によって決まる。これは厳しい状況とも言えるが、研究者は進むべき方向を自分の責任で決められるので、この自由度が職業としての研究者の醍醐味と言うこともできる。面白いのは、どんなに斬新と思われる仮説でも、実は世界の誰かが同時期に気づいていて知らぬ間に研究競争が起きている事である。論文を他より早く出せるかどうかが重要だが、この緊張感も研究の醍醐味と言え、うまく事が運んだ時には他にはない達成感・高揚感を味わう事ができる。

研究に最適な場で、優秀な仲間と切磋琢磨し、世界に発信できる成果を出したいと願う学生さんは、是非、応用生命化学・工学(旧農芸化学)の門をたたいてはどうだろうか?きっと、後悔しない研究生活が待っていると思う。

(平成25年日本学士院学術奨励賞受賞)

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