うま味発見から機能性食品開発まで

うま味発見から機能性食品開発まで

食品は,一次機能(栄養特性)、二次機能(嗜好特性),三次機能(生理調節機能)を有している。三次機能の考え方はもっとも新しく、約20年前の1990年代に提唱された。この考え方を世界に先駆けて発信したのは、農学部農芸化学領域の研究者らが中心となって発足させた文部省科学研究費補助金・重点領域「機能性食品」研究班である。日本における食品研究は、明治維新後設立された大学の農学部農芸化学領域において精力的に行われ、このような新たな概念を提示するのに100年近くの年月を要したと言える。

今からおよそ100年前、東京帝国大学農学部農芸化学科教授であった鈴木梅太郎は、当時の国民病であった脚気の原因は米ぬか成分のオリザニン不足によることを明らかにし、その後のビタミンと言う新たな栄養素概念の礎を築いた。食品の一次機能である、タンパク質、脂質、糖質等の生命活動に必要な栄養素を供給する働きの、ビタミンの部分を世界に先駆けて示したことになる。

一方、同時期に東京帝国大学理学部化学科教授であった池田菊苗は、だし昆布の中よりうま味物質グルタミン酸を発見し、酸味、甘味、苦味、塩味と並ぶ第5の基本味として、うま味と名付けた。現在では、英語でも”umami”と表記される国際語となっている。その後、L-グルタミン酸ナトリウムは「味の素」と言う商品名をつけ製造販売され、現在の味の素株式会社の発展に結びついている。池田の発見は、食品の二次機能の嗜好特性にうま味という新たな基本味を加えることに繋がった。

こうした偉大な化学者の教えを受け継いだ多くの農芸化学領域の研究者が、その後、食品に含まれる種々の成分の生理調節機能を明らかにし、その研究成果に基づき、現代では三次機能を活かした様々な機能性食品が創製され、国民の健康維持に活用されている。世界をリードする食品研究が今日も日本で展開されている。

(佐藤 隆一郎)